MY HERO’S INTERVIEW

GUEST プロフィール
渡辺達生(Tatsuo Watanabe)
1949年 山梨県生まれ。
カメラマン。代官山育ち。成蹊大学経済学部卒。小学館「GORO」創刊から看板カメラマンとなり、1995年〜2013年まで週刊ポストの表紙カメラマンを務める。4000人ものモデルを撮影。200冊以上の写真集を手がける。


達生さんは1992年私がキャンペーンガールに選ばれた時、初めて写真集を撮っていただいたご縁で、その後グラビアやセカンド写真集などを手がけていただきました。過酷なスケジュールやハードなポージングでもいつも現場は明るく楽しい。冗談っぽく本気、本気っぽく冗談を言う、そんな話術もさることながら何より心の壁を取り払う名人。20年ぶりに再会して募る話もたくさん。軽快に話してくれる達生さん節は嫌味がなく、笑の絶えない対談になりました。ご本人は謙遜されますが今では「巨匠」。そして人望が厚く、多くの俳優、モデルからお声がかかる達生さんの魅力とアイデンティティを伺います。

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NO.3 笑顔のためなら

立河:達生さん、ねこのカレンダーを作られたんですって?

渡辺:これ全部iPhoneで撮ったんだよ。1匹だけ違うけど全部うちのねこ。

立河:1週間ごとに写真が変わるんですね。週めくりカレンダー。これは楽しい!

渡辺:そうそう。写真が50枚入るんだ。

立河:今何匹いるんですか?

渡辺:ここには8匹のねこが登場するんだけど、うちにいるのは全部で7匹。一番上の子が多分16歳くらいかな。みんなノラ猫だからはっきりはわからないんだ。生まれた時から付き合ってるわけじゃないからね。4つくらいになってから病気がきっかけでうちに来た子たちもいるし。

立河:達生さんがノラ猫を家族として迎え入れたのはどうして?

渡辺:ノラ猫がさ、病気で苦しそうにしてると連れて帰ってきて病院で診てもらうでしょ?回復するまでうちに置いておくんだけど2ヶ月とか経っちゃうと、餌を置いてまた外に戻すわけにはいかないじゃない。

立河:優しいなぁ。そうですよね。情も移っちゃうしね。あれ?このカレンダー見せてもらってると耳の欠けてる子がいる。

渡辺:それはメス猫で避妊手術をした証拠なんだよ。ノラ猫は誰が見てもわかるように目印としてちょっとだけ耳の端をカットするんだ。獣医の中にはその目印つけるのを愛護的にどうなんだと問う人もいるけどね。

立河:そうなんですか?知らなかった。

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渡辺:避妊しないと何匹も生まれてまた増えちゃうだろ?地域では猫の嫌いな人もいる。目印があれば無理に捕まえなくてもいい。猫も人間に追いかけられて怖い思いをしなくて済むしね。“町ねこ”っていうのはそういう飼い方をするんだ。

立河:避妊手術ってお金がかかりますよね?それって達生さんが負担するの?

渡辺:しょうがないじゃない。昔は区で少しの補助金が出たこともあったけど今はなくなっちゃった。それは悪用する人がいるからなんだ。獣医の中にはノラ猫なら半値にしてくれる人もいるけどね。

立河:今まで何匹くらい助けてあげたの?

渡辺:助けたなんていうと烏滸がましいけど、もう数え切れないなぁ。うちには骨壷が10はある。カレンダーのモデルになってるうちの子たち、7匹もいると3つの軍に分かれていて、お互いに相容れないこともあるんだ。オス・メス関係なくね。

立河:喧嘩になるの?

渡辺:うん。ねこの喧嘩ってすごいからね。だからそれぞれのグループによって部屋を分けてる。でも一方が成猫で子猫を仲間に入れる場合は懐くからいじめたりはしないけど、大人同士だとなかなかうまくいかないんだ。

立河:そういうねこの習性も理解しながら一緒に暮らしてる達生さんには、彼らも素の顔を惜しみなく見せてるよね。かわいいだけじゃない、ねこのグラビア。達生さんねこにまでこんな格好させて。(笑)さて、長年カメラマンをやってきて達生さんからみて写真でわかる時代の変化ってありますか?

渡辺:それは単純な話、メイクだろう。流行りがあるね。眉毛の太さですぐにわかる。やっぱりあれだけ女の子を撮ってると、メイクと衣装は詳しくなるよ。メイクの上手い下手もね。人によっては利き手もわかる。もちろん、水着や洋服もあるけどともかく顔が一番わかるよね。

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立河:なるほど。本の中(おんなの撮り方 渡辺流)に“いい表情を撮るための天敵としてメイクもやっかいな存在”とあります。それってね、表情という物理的なものも含めて私も美容の仕事をしてると思うところがあるんです。スッピンに近い方が性格の良さや本人の魅力が上がることもあるのに濃すぎるメイクをする。流行りもあるかもしれない。でも、顔は第一印象を決定づける。なのにわざわざ印象が悪くなるようなメイクしちゃう。本人の良さを引き出すものならいいのに、もったいないって思います。ちなみに体型でわかったりは?

渡辺:最近の子はよくスタイルがよくなったとか言うけど、これは何ともなぁ。今はすごく痩せてる“モデル”が流行ってるよね。単純にそのスタイルが好きかどうかじゃないかな。当時はモデルじゃなく、“グラビアアイドル”や女優が流行ってたよね。

立河:つまりは体型で時代がわかるというよりは、メイクと同じようにグラビア系、モデル系など流行りがあるということなんですね。

渡辺:うん。今、ヨーロッパのモデル業界では診断書を出さないといけないところもあるし、痩せすぎのモデルを使った場合、雇用者側は処罰の対象になる。さらに写真の修正に関しても厳しくなってるんだよね。ニュースで使われる画像もどこで何時何分に撮られたものか、修正しにくいソフトで撮ったかどうかによって採用の可否が決まるようになってきてる。最近はアメリカの下着メーカーが一切修正しないで少しポチャっとしたモデルを使った広告がすごくウケてるんだよね。立河の時代が来るんじゃないの?

立河:私の時代になっちゃう?(笑)

渡辺:そうだよ。撮っちゃおうよ、先に。

立河:また始まった(笑)このコミニュケーションが達生さんの写真に写し出されるんですね。つい笑顔になっちゃう。今年は「ピース」をテーマに週刊ポストの表紙を飾った女優さんたちの写真展をされたそうですね。

渡辺:うん。これはライフワークにもなってるんだけど、ベタに「はい、ピース」っていうといい笑顔が撮れる。被写体になってくれた皆にも喜んでもらえてよかったよね。撮影中はお互いに戦友みたいなものだと思うんだ。やっぱりさ、撮影が終わった後は気持ちよくハグして帰りたいよね。笑顔になってもらうこと、それに労力は厭わないな。

取材/文 タチカワ ノリコ
Photo Takeru

※「怒ねこ 今週の吾輩 2017年カレンダー
 (株)トライエックスより 全国書店で発売。

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