MY HERO'S INTERVIEW

GUEST プロフィール
柳生 博
1937年生まれ。茨城県出身。俳優・司会・タレント。作庭家。公益財団法人・日本野鳥の会会長。船員を目指し東京商船大学(現:東京海洋大学)に入学するも視力を落とし中退。その後俳優を志し劇団俳優座の養成所に入る。ドラマ・映画・舞台・バラエティ番組で活躍。NHK朝の連続テレビ小説「いちばん星」テレビ朝日「100万円クイズハンター」司会、NHK「生き物地球紀行」ほか多数。1989年山梨県北杜市大泉村にギャラリーレストラン、八ヶ岳倶楽部を開設。
著書「森と暮らす森に学ぶ」「八ヶ岳倶楽部II それからの森」「じいじの森」など。


今回は八ヶ岳倶楽部のパパさんこと柳生博さんをゲストにお迎えします。空、風、木々、花々、鳥、太陽、月、星。それに触れたくて訪れる八ヶ岳にはいつも穏やかな笑顔で出迎えてくれるパパさんがいます。どこかで「ただいま。」という気持ちになるここは私の一番大好きな場所。そして大好きなパパさんにアイデンティティを伺いました。ゆったりと丁寧にお話しくださるその声、優しさ、強さが胸に響きいつも涙が出てしまいます。心を浄化してくれる、そんな場所でありそこに存在するパパさんです。

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NO.3 13歳の一人旅

柳生:「13歳の一人旅」って聞いたことあるかい?僕のうちには代々続くある“決まりごと”があって、13歳になったら、一人旅に出なさいって言われるんですよ。 その時に備えて自分が前々からどこへ行くか決めてね、たった一人、30日間の夏休みに出されるんです。僕は平野部に生まれ育ったからもっと峨々たる山があるところに行きたいと思ってね。 数学が好きな少年だったから地図をみて等高線の混んでいるところ、つまりあえて入り組んで複雑なところを探したんだ。するとちょうどここの高原列車が走る小海線を見つけた。“よし、この汽車に乗ろう!”と決めたんだ。

立河:小海線ってその時代からあったんですね。

柳生:甲斐小泉、大泉、清里、野辺山・・・とずっと泊まり歩いて。

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立河:泊るんですか?各駅で13歳の少年がたった一人で?

柳生:そう。ベンチでね。一番気に入ったのがこの辺りでね。そのうち電車に乗らず線路を歩いたりしたんだ。標高0mの平野部からこんなに高いところに来るなんてドラマチックじゃない? 寝られなくなるくらい興奮したよ。進駐軍払い下げの毛布とリュックサックの中には洗面道具、着替えを2、3枚。それから油絵の道具ね。絵を描くのが好きだったからね。

立河:映画スタンドバイミーですね。

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柳生:面白かったよ。出かけるときには親父が目にいっぱい涙をためてね、「頑張れ、」って。そしたらお袋がとうとう泣いちゃってね、「博、イヤになったら帰ってきていいんだからね。」って。 親父は「帰ってきたらダメだ。」と。そうすると剣道7段のおじいちゃんがね「博、大丈夫だ。みんな大丈夫だったんだ。お前も大丈夫。」って。 そしていつもじいちゃんの横にぶら下がってるおばあちゃんまで「ね、みんな大丈夫だったよね、じいちゃん。」って。で、飼い犬の十兵衛もしっぽ振ってね。(笑)

立河:十兵衛!あはははは!

柳生:そして無事に帰ってくると、僕の家は高台にあってその下にちょうど小川が流れているんだけど、そこでおじいちゃんが待っててくれるんだ。 「ただいま」って帰ると、「お帰り。顔を見せてみろ。うん、いい顔になった。」ってね。元服みたいなものかな。

立河:大冒険ですね!

柳生:うん。僕の兄弟はみんなそれぞれが自分で考えてやってきました。この旅は息子たち(真吾さん・宗助さん)も経験したんだよ。

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(次男の宗助さん登場。現在八ヶ岳倶楽部の社長さんでいらっしゃいます。)

立河:宗助さんも行かれたんですか?

宗助:僕は倉敷の方で一泊。そのあと母の遠縁の人がいた下関〜萩。そして寝台列車で帰ってきました。

立河:温かいお話。宗助さんのお子さんもそうしてるんですか?

宗助:はい。去年行きました。送り出すときは切ないんですよね。

立河:親心ですよね。でもそうして親に見守られながら旅に出て、子供って強くなるんでしょうね。

柳生:行く方は大したことないんだけどね(笑)ワクワクして準備して。兄貴もやってるし、その話はいつも聞いてるしね。

宗助:息子はこの八ヶ岳倶楽部で出店している色んな作家さんのところへ行きました。名古屋、浜松、八王子・・・そして八ヶ岳に帰ってくるというコースです。 作家さんの作業する現場に行って手伝ったりするんです。

柳生:いいだろ?うちの中の決まりごととしては結構好きだね。

立河:この13歳の一人旅はどんなことを学ぶのが目的ですか?

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柳生:僕の兄弟はみんなそれぞれが自分で考えてやってきました。基本的に13歳までは“家族のようなもの”の中で生まれ育って可愛がられて、それが全く別の文化圏に行くわけです。 つまり始まりです。違う世界へ行く第一歩です。それも移動から何から一人で、行動も全部自分で考えるんです。

立河:いい社会勉強ができますよね。

柳生:もちろん。そうすると僕の実感として「大人って優しいな」と感じるんだ。大人っていうのはね。

取材/文 タチカワ ノリコ
Photo 北杜 薫

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To be continue Vol.3

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