GUEST プロフィール
鈴木千夏
1966年生まれ。株式会社ナチュラセンス・ジャパン/ NATRASENSE
AUSTRALIA代表。オーストラリア在住(1994年〜)。主に海外のオーガニックプロダクトなどの輸入販売や、商品プロデュースなどを行う。
最近では日本の健康ブームの影響もあり、12年前からオーストラリアで手がけてきたココナッツオイルの自社ブランドが人気となり、日本にも活動範囲を広げている。
また渡豪前に携わっていた仕事(主にテレビ番組のリポーターやMCなど)の経験を活かし、オーストラリア/日本をベースにオールマイティな司会業、またそれに関連したイベント企画・運営を行うなど、人と人、国と国との「コミュニケーター」として活動することをライフワークとしている。
http://natrasense.com
http://organic-australia.com
NO.2 国際結婚とカルチャーショック
立河:その後、千夏さんのみなぎるパワーはどんな仕事に活かされたの?
千夏:程なくして、人材派遣企業のPR広報でナレーションなどをする仕事に就くのよ。なんせやる気満々ですからね。オーディションを沢山受けてナレーターのお仕事が増えていくんだけど、気が付いたら原稿からはみ出してそれ以上突っ込んだりしちゃう自分がいるのよ。
立河:あの時代って台本通り進行するのが常だったもんね。
千夏:そこに1年ほど勤めて、原稿を覚えるのが大変という理由もあったけど、その時に「決められた台本をきっちり覚えて伝えるのがお仕事とわかっていても気分が乗っちゃうともっと違うことを喋りたくなる。でも、台本通りに進行しないといけない」というジレンマが生まれたの。
立河:アドリブを入れたくなっちゃうのよね。
千夏:そうそう。そこから転職。某テレビ局、広報の番宣番組でレポーターとしてアナウンサーとの掛け合いや、俳優さんへのインタビューなどの仕事に就いたのよ。番宣なので大物俳優さんなどに会うわけだけど、私は誰に会ってもこのままなのよね。(笑)だから無駄に緊張することもなければ、舞い上がっちゃうこともないの。構えることなく、まるで前から知っていたかのように話をするから重宝がられて。(笑)
立河:なるほど!それが専門学校の時に先生が仰った言葉につながるのね。
千夏:かな?って、その時思ったよね。その後何年かはテレビのお仕事をさせて頂いたのだけど私はカメラに向かって話すのではなく、大かれ少なかれ目の前に人がいて、その人たちとコミュニケートすることが得意で大好きだったから、その得意分野を活かせる道に進んでいくことを決意して、その後2年くらいはMCのお仕事のみをしていたのよね。
立河:その時代に千夏さんは国際結婚してオーストラリアに移住したんですよね。結婚のきっかけは?
千夏:それまで結婚する気持ちなんて全然なかったの。彼が日本で仕事をしている時に知り合ってお付き合いを始めたんだけど、私が仕事のことですごく落ち込んだことがあった時によく一人暮らしの家に来てくれたのね。励ましてくれるつもりだったんだと思うけど、何を言うでもなく、そばで支えてくれたの。家族になるってこういう空気なのかな?って生まれて初めて思ったのよね。ちょうどバブルも終息を迎えて彼も日本の仕事を引き上げてオーストラリアに戻ろうかというときだったから、じゃ、私も行ってみるかって。それが27歳の時。
立河:そばで寄り添ってくれたんだ。素敵だな。しかし即決で渡豪とはさすがアクティブね!
千夏:そうなのよ。(笑)オーストラリア自体にも行った事がなかったので親戚からは「チャレンジャー」というあだ名がついたわよ。彼にもまずは留学とかして国を見てから決めたほうがいいのでは?って心配されたけど、英語圏で先進国でしょ?大丈夫よ、そんなの平気平気!なんて。(笑)ワーキングホリデーのシステムすら知らなくて、婚約者ビザを申請してすごい勢いでことを進めていきました。
立河:誰にも相談せず?
千夏:うん。自分で決断しちゃうタイプだからね。両親にも「報告があるんだけど」「なあに?」「結婚しようと思うんだけどさ」「そう」「目が青い人かもしれないよ?」「え??」みたいな。(笑)今思えば、彼と両親を会わせたときはおもしろかったねー。母は面接官。父はすでにビール2本空けてた。(笑) でも大人だから反対もないし、千夏が決めたことだからね、って言ってくれて。 で、94年の12月に渡豪したんだよね。
立河:オーストラリアに渡ってから困ったことは?
千夏:まず最初に結婚式。渡豪して間もなく、彼の故郷であるメルボルンで結婚式を挙げたんだけど、誓いの言葉ってあるじゃない?牧師さんが言った言葉をそのままリピートするわけだけどそれが思いの外長い!(笑)勿論できなくて、え?え?って何回も牧師さんに聞き直したのよ。(笑)しかも、結婚証明書にサインするんだけど、その場所すら間違えちゃって。(笑)
立河:あはははは!
千夏:何が起こっているのかわからないうちに半分くらい結婚式が終わっちゃったって感じ。(笑)YWCAで英語を習っていたし日常会話ぐらいはできるだろうって言う気持ちで行ったわけだけど向こうではいろんな手続きはあるし、家にいればいろんな電話もかかってくる。耳に入ってくるのは勿論全て英語。友達もいなければ誰も知らないのよ。早く環境に慣れようと、移民が無料で受講できる500時間の英会話と夜間の学校も真面目に通ったわ。
立河:本当に努力家ですね。
千夏:主人が日本語を話せるから、家では日本語で会話するじゃない?勿論彼も全力でサポートしてくれたけど、まずは自分の選択でオーストラリアに渡ったわけだから、とりあえず頑張るしかないのよ。
立河:お仕事は?
千夏:何かしないと、と思って、ウェディングの仕事に就きました。
立河:知らない国で知り合いもいない中ですごい行動力!職場では英語だけ?
千夏:お客様は日本人なんだけど、社員の7割がオーストラリア人だから社内では会議もレポートも全て英語。
立河:うわぁ・・・めまいがする。
千夏:しかもカルチャーショックがあってね。最終的に私が実感したのは、「この国は言ったもん勝ち」ということ。(笑)
立河:言ったもん勝ち??
千夏:日本人はその場とか人の立場を思いやって言葉を発する文化だから、思ったことを言ったり言わなかったり、自分の中でコントロールするじゃない?
立河:確かに、そうしてるし、されるよね。
千夏:でもオージーはガンガンくるのよ。悪い意味ではなくてね。白黒はっきりしていて、表裏がなく思ったことをストレートにぶつけてくるからすごく傷つくのよ。でも陰湿なことは全くないの。イヤなものはイヤとはっきり言う文化なの。これはカルチャーショックでした。でもそれに臆して何も言わないと、意見を言わない人になって前に進めないの。そんなことから、海外に住む日本人は強くなっていくのよね。きっちり自己主張していかないとサバイブできない。そういう術は学んだよね。
立河:その後、お嬢さん二人を授かって。向こうでの出産、子育ては大変だったでしょ?
千夏:長女を産んだ時、やっぱりドクターとの会話は主人も一緒に行ってもらわないとちゃんと話せるか自信がなかったし、入院中も看護婦さんに日本語で思っていることを英語で言おうとしても単語が出てこなかったり。
立河:落ち込んだこともあった?
千夏:あったわよ。すごい落ち込んだ。特に子供が出来てから半人前な気持ち。お母さん、しっかりできてないよねって。仕事も辞めていたから専業主婦で家にいる。そうすると英語から離れるのよね。その中でまた数ヶ月おきに子供の検診で病院に連れて行くんだけど、うまく伝えられないんじゃないかなって不安になったりして考え込んだり。ずっとよ。 次女が生まれた頃はオーストラリア生活にも慣れてはきているのだけど、それでも自分の中で中々壁が越えられなくて。やっぱり、言葉って深いよね。
立河:日本にいれば言葉も通じるし、自分の両親も近くにいるからそれほど心配もなかったでしょうね。
千夏:そう。頼るところがないのよね。自分がやっていることが正しいかどうかもわからないから不安で仕方がなかった。あの頃はまだインターネットがないから、母が送ってくれた「ひよこクラブ」を熟読よ。両親も仕事があったから長女が初孫だけど、生まれて2ヶ月経った時ようやく会いに来てもらえたという感じ。
立河:ご主人の家族が手伝ってくれることは?
千夏:それもまた文化の違いがあったのよ。日本は出産後1ヶ月は安静に、と言われるでしょ?主人の家は大家族なのだけど、退院した瞬間に3組くらいお祝いとお手伝い?で泊まりに来て。(笑)色々教えてくれようとするんだけど、生まれたばかりの子供の世話もしなきゃいけない、やっぱり日本人としてのおもてなし精神もあるので、皆さんのお世話もしなくちゃ、ってドタバタ。 それで言うなら、もう一つすごいのが産後すぐに、助産師さんに「はい、シャワー浴びてきてね」って言われた事よ。日本だったら考えられないでしょ?(笑)
立河:文化と出産に対する考え方の違いなのかな?それで浴びたの?
千夏:浴びたわよ。言われるがまま。(笑)二人目の時は安産だったし心配はなかったけど、ここで笑い話があるのよ。 次女を取り出してもらった時、助産師さんが「Oh! It’s red!」(赤毛よっ)って言った瞬間、周りが数秒シーンとしたの。 主人の髪の色はダークブロンド。私は黒髪じゃない?ということは?って・・。その直後に主人がMy sister has red hairって。そう。彼の母方の遺伝で赤毛の傾向はある家系なのよね。(笑)でも、あの出産直後のシーンとした数秒間が私的には本当に面白かった(笑)
取材/文 タチカワ ノリコ
Photo Takeru
To be continue Vol.3