MY HERO’S INTERVIEW

GUEST プロフィール
渡辺達生(Tatsuo Watanabe)
1949年 山梨県生まれ。
カメラマン。代官山育ち。成蹊大学経済学部卒。小学館「GORO」創刊から看板カメラマンとなり、1995年〜2013年まで週刊ポストの表紙カメラマンを務める。4000人ものモデルを撮影。200冊以上の写真集を手がける。


達生さんは1992年私がキャンペーンガールに選ばれた時、初めて写真集を撮っていただいたご縁で、その後グラビアやセカンド写真集などを手がけていただきました。過酷なスケジュールやハードなポージングでもいつも現場は明るく楽しい。冗談っぽく本気、本気っぽく冗談を言う、そんな話術もさることながら何より心の壁を取り払う名人。20年ぶりに再会して募る話もたくさん。軽快に話してくれる達生さん節は嫌味がなく、笑の絶えない対談になりました。ご本人は謙遜されますが今では「巨匠」。そして人望が厚く、多くの俳優、モデルからお声がかかる達生さんの魅力とアイデンティティを伺います。

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NO.4 スタンスはずっと変わらない。

立河:第1回目でも少し触れましたが、達生さんが今やっている「寿影会」についてお聞かせください。

渡辺:これはね、高齢者にとって最高の場所かな。“自分の居場所”かも。というのはオレがもう高齢者になったんだよね。若いうちはデビューしてもうワンランクステップアップする「始めの一歩」を踏み出す子たちと一緒にグアムやハワイで遊ぶ(撮影する)場所があったよね。でももうそれは若い人たちに任せて、これからはたくさんのキャリアを積んだ高齢者の「最後の一歩」を私が見届ける、という思いで始めたのが「寿影会」なんだ。

立河:達生さんにとっての居場所って撮影を“遊び”っていう表現でロケ地や被写体とともにあるんですね。寿影会は人生の見届け人役ですね。

渡辺:そんな風に言うと烏滸がましいけどね。今は都内のスタジオで撮ってるんだけど、移動スタジオを作って田舎のおばあちゃんを撮ってあげたいよね。わかってもらえるかどうかわからないけど、できれば笑顔を撮りたいんだ。やっぱりお葬式の写真は笑顔じゃないとさ。形式ばったもので故人や参列した人が喜ぶか?それなら写真をいっぱい並べてみんなで思い出話しながら賑やかに飲んだほうがいいじゃないか。オレは葬式をしなくていいと思ってるし、墓石で残すつもりはないんだ。後で飲み会くらいはやってほしいけどね。遺灰だってハワイの海に撒いてくれよって思ってる。(笑)

立河:達生さんご自身の写真は?

渡辺:オレは作品が残ってるじゃない?それを見てくれた人が覚えていてくれたら十分だよ。

立河:写真、つまり被写体を通して、“渡辺達生”がそこに残っているんですもんね。

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渡辺:そんな大したもんじゃないけどさ。(笑)どうも形式的なものが好きじゃないんだよね。子供にはかわいそうなことしたけど、例えばクリスマス、正月、七夕、お盆、イベントごとは何にもしないんだよね。親もそういうのに反発してた気がするな。オレたちの時代は特にそうじゃない。大人がやってることは全部悪いなんて思ってたからさ、高校、大学の卒業式は出なかったよ。それは今も後悔してないな。

立河:異端児ですね。(笑)でもそうやって自由に生きられるから今の達生さんがいらっしゃるんですよね。達生さん、7年前に大病をされて、それも今のスタンスになったきっかけ?

渡辺:スタンスは昔から変わらないよ。ただ、年に1回の人間ドックはしたほうがいいな。女房とさ、誕生日が近いからそのタイミングで何年か前から受けることにしたんだ。それで数回目に見つかったんだ。あんなおっかないものはないよな。皆さ、死ぬ時は死ぬよっていうけど、もうちょっと長く生きたらいいことあるかな、なんて思うよね。

立河:診断を受けた時はどんな気持ちでしたか?

渡辺:なんだかよくわからなかったよ。頭が真っ白でさ。今は医者が本人にはっきり言うんだよね。「渡辺さん、食道がんですよ」なんて。げ、ってさ。人間還暦の頃、60年も経つと骨も肉も頭の中も全部がへたるんだ。人間ってきっとその辺から寿命を感じて死に向かって行くんだね。だから病気にもなるし、ならなくても緩やかに機能が下降していくんだね。

立河:年齢を重ねていることを受け入れるのも大切なことかも。その時何か体に変化ってあったんですか?

渡辺:自覚症状なんて何もなかったよ。周りが若いじゃない?そういう女の子ばかりを撮影してきたから自分も同じように若いつもりでいたんだよね。鏡を見ればよかったよね。鏡がなかったんだよ。(笑)

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立河:またそんな冗談言うけど…。

渡辺:例えば自分の周りが同年代で毎日のようにあそこが痛い、ここが痛いなんて話をしてたら油断せずに病院へ行ったんだと思うけど、オレの職場は若くて元気な子ばかりだろ?(笑)そればかりは我を忘れてたんだな。

立河:達生さん、撮影してる時も我を忘れるの?実際はどんなこと考えてるんですか?

渡辺:写真はね、バカなこと言いながら実はすごく冷静に撮ってるんだよ。頭の中でデータをピシッと管理してる。おーっ、いいぞーって汗をびっしょりかいて夢中になって全てを忘れて撮ってるんじゃないんだよ。

立河:計算してるんですか?

渡辺:そうだよ。きちっとページ数を計算して撮ってるんだよ。

立河:リップサービスしながら頭の中で考えて、被写体がイヤな気持ちにならないように細心の注意を払いながら。器用ですね。

渡辺:常に我を忘れて撮ってたら3日くらいでイヤになっちゃうだろ。(笑)

立河:あははは。達生さんにとって撮りやすい被写体はどんな人?

渡辺:それは一緒に僕のお芝居に付き合ってくれる人じゃない?シャッターをたくさん押される気持ちと顔になってくれて、フーッと引いて風景ごと撮ってるとそこにマッチした雰囲気を作ってくれる人だよね。これはさ、どちらが監督かはわからないけど、お芝居みたいなものだよね。きっと二人で1本の作品を作るんだ。

立河:あぁ、わかります。呼吸を合わせるの。それが合ってくるとすごくいい空気になるよね。

渡辺:うん。ある意味の夫婦みたいなものかもしれないね。夫婦がなんでも丸裸で100%ぶつかりあったらすぐに離婚だろ?別に飲み込むわけじゃないけど少しだけ相手のことを考えて立ち居振る舞いしたほうがいいだろう?そしたら我慢できることなんていっぱいあるじゃない。

立河:これが達生さんのアイデンティティですね。

渡辺:うん。それが基本じゃないかな。今度出したさ、「おんなの撮り方」ってそういうことが書いてあるんだ。写真の撮り方を書こうと思ったんだけど、その昔、オレたちが何ヶ月も何年も頑張って乗り越えた“関所”が今はデジタルカメラが全部やってくれるの。だから、その本にはそういった技術的なことじゃなくて、“人とのお付き合いの仕方”を伝えるっていう側面もあると思ったの。今の子たちって女の子とどう接していいかわからないっていうのが多いんだよね。

立河:なるほど。写真は心を通わせて撮る。そのコツ、渡辺達生イズムがここにはありそう。

取材/文 タチカワ ノリコ
Photo Takeru

おんなの撮り方 渡辺流

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怒ねこ 今週の吾輩 2017年カレンダー

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寿影会

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Special thanks,,END


Thank you messege from Noriko Tachikawa

渡辺達生さま
達生さんと初めてお仕事させていただいたのは今から干支がちょうど2周、24年前でした。先日、久しぶりに代官山で達生さんを見つけて声をかけました。それもずっと変わらずそこにある、気負いのないとってもおいしい定食屋さん。そんな再会の場所はどこか達生さんの被写体に対する愛情表現とリンクするような気がしました。お互いに年齢を重ね、改めて達生さんイズムを聞かせていただいてとても楽しい対談でした。ありがとう。そしてお体に気をつけて、これからも素晴らしい作品を撮り続けてくださいね。

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次回は、新しいゲストをお迎えいたします。お楽しみに!

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