MY HERO’S INTERVIEW

GUEST プロフィール
淺賀達也 Tatsuya ASAKA
1963年生まれ。東京都出身(株)ソナ マネージング・ディレクター(3月に代表取締役就任)
音楽制作の経験から建築音響、空間音響、そして音響モニターシステム調整などの音響技術に関する知見を広範に持ち、それを生かして(株)ソナのマネージングディレクターとして映像及び音響制作環境と制作作品の向上の底上げをしている。海外にも精通し、2000年に当時ルーカスフィルム社THX部門(www.thx.com)とパートナーシップ契約を行い(当時アメリカ以外初)、日本国内の音響制作環境を世界基準に認識を高めた。さらにTHXプロフェッショナルホームシアターを日本で初めて開催を成功させ多くの高度なホームシアターインストーラーの輩出に貢献した。自らもTHXフィールドエンジニアとTHXホームシアターインストーラーの認証を得ている。
そしてイギリス・ロンドンのAbbey Roadスタジオ、メトロポリス等の音響設計を手掛けているイギリスACOUSTICS DESIGN GROUP社(www.adg-uk.co.uk)の日本法人となるADGジャパンの代表を務めた。 国内の主とする音響スタジオ(映画館、ポストプロダクション、レコード会社等)のプロジェクトディレクターとしての数多くの経験を豊富に活かし、一般的な空間にも音響技術の取り込むことを積極的に行っており、イベント・ミュージアム等のビデオインスタレーションの設営と作品制作を手掛け、制作環境と作品再生環境(ハード&ソフト)を硬軟自在にて操り、豊かな「音」の制作表現を拡げ活躍する。

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NO.2 音と味はよく似ている

立河:今回はTHXのスタジオにお邪魔させていただいています。

淺賀:せっかくだから音を出してみるね。

立河:Carole kingのSo far away。うわわ…鳥肌と涙が止まらない。

淺賀:素晴らしいでしょう?

立河:こんな音で音楽を聴いたのは初めてです!このメロディや声が胸に響いて切なさが増します。思わず両手を広げて天を仰ぐ仕草をしてしまいます。今までただそのアーティストが好きとか、歌詞が好き、テンポが好き、という感覚で音楽を聴いてきましたが、音楽の持つ意味合いが変わってきますね。これはどんな音響の仕組みなんですか?

淺賀:音源の中には信号が入っています。そのチャンネル数によって表現出来る音が決まってきます。それをどんな環境、システムで聴くかによって表現される音が無限大に広がります。今はサラウンドシステムで聴いてもらいました。

立河:素人質問ですみません。“サラウンド”というのはスピーカーがグルッと置いてある状態を言うんですか?

淺賀:サラウンド=包囲・包むという意味です。5.1サラウンドとか7.1サラウンドとか聞いたことあるでしょう?モノラルという時代があってこれは音源の中に入っている信号が1チャンネルしかないんだ。そしてステレオは2チャンネルで右、左に分けて聞くことが出来ます。ちなみにこれはスピーカーの数を表しているんじゃないんだよ?あくまでも音声信号の数を表しているんだ。そしてサラウンド、例えば前に3つ、後ろが2つのチャンネルに分けられます。それに低域専用の.1を加えて5.1チャンネルなります。

立河:なるほど。そういう意味だったんですね。

淺賀:自分の音楽、自分の映像をどう表現したいかによって、チャンネル数はアーティスト本人など制作者が決めることになります。その音を精密に表現できるように制作環境を構築するのが僕たちの仕事ですね。ある著名な方はスピーカー設定を前とか後から意識するような表現は好みではなくピラミッドの中にいるように表現させたいので4.1という手法を選ぶ。それは自分が音をどう表現したいかということで決めます。

立河:なるほど。しかし音を言葉で表現するのって難しいですね。

淺賀:とても難しいことでしょうね。制作に当たり皆さん使う音の言葉に、コシがある、ツヤがある、粘りがある、腹にくるとかそういった表現があります。例えば“周波数的には”とか、“楽器的には”といった具合に。そこで認識の差を埋めてスペシャリスト同士でわかる共通の言葉が経験上共有できると、いい音を作る工程でスムーズになります。

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立河:どのポイントでどの部分を指しているのか、個人差の大きい経験値の中でのすり合わせ作業は大事だし難しいでしょうね。

淺賀:「音」と「味」はよく似ていると思います。例えば築地で仕入れた美味しい鮮魚で職人の方の技術とサービスが素晴らしいお店に行けばもちろん美味しいよね。あぁ、あの美味しいお寿司が食べたい!と思うように、あぁ、あの音で聴きたいと思わせたいですね。でも、人によってはあんな高いのはいいよ、あそこの回転寿司が美味しいからあそこで十分じゃないかという人もいる。最近お寿司食べてないから食べたいな、あ、じゃあ手軽にコンビニ寿司で満足という人もいる。音でいうと、ハイレゾなどの高品質な音で聴きたいという人もいれば、手軽にスマホなどポケットに入れられる物で聴けたら満足、という人もいる。こんな風に味と音の感覚は似ていると思う。 ただ、そんなに偏っているわけでもなく、家では高品質な音で、移動中は手軽に、アウトドアではちょっとしたスピーカーなど、聴く環境や音を使い分けることができる時代なんです。

立河:確かに。味を知らなければ何を食べても同じですよね。ある意味、味気ない。

淺賀:そして重要なのは、聴くアイテムの良し悪しの前に、高品質な音を作る環境だと思っています。僕はそれを求める人のお手伝いをするのが仕事なんですね。始めからコンビニのお寿司を作ることだけが目的だとすると、我々の仕事は必要なくなってしまいます。

立河:今回お邪魔しているこちら、THXのスタジオはどんなことができるんですか?

淺賀:35年以上前、映画館のほとんどはサウンド的に満足のいくものではなく、各映画館の音の上映環境は異なっていてハイレベルな映画上映に関する規格がないことにジョージ・ルーカス監督は気づいたそうです。映画を楽しむ上で「音」は重要な要素であると考え、映画ファンのためにも、より制作者の意図が正確に再生できるような上映環境整備がこのTHX規格の目標でした。「スターウォーズ、ジェダイの復讐」のプレミアム試写会の時にTHX システムが導入され、今では世界中で、3000以上の映画館、ダビングステージがTHXの認証を受けています。このスタジオはTHXの制作スタジオの規格になります。

立河:ということは、ジョージ・ルーカス監督が表現したかった音が、ここでは精密に表現できるということですね!

淺賀:そうです。作品内容とは別に映画には“音響効果”“セリフ”“音楽”とこの3本柱で構成されています。映画作品は基本的にセンタースピーカーから“セリフ”再生されています。ところが設置条件によってはセンタースピーカーが端の方だったり天井だったりすると、スクリーンの映像と音像が合わず、音の聞こえる位置に違和感が起こります。人間の“感覚”は自然とその違和感を察知するのでストーリーに矛盾を感じてしまいます。そういったことが起こらないように正しいモニター配置を考慮したシステムでもあります。

立河:なるほど!だから映画館に行って観ると感動もひとしおなんですね。ところでロスやロンドンでレコーディングすると音がいい、という話をよく聞くのですが、“いい音”とは何を基準にするんでしょう?

淺賀:いい音というのはたくさんの条件が合わさるものなので結論は出ていません。 理由は一つではないんですね。耳のジャッジというのは何に基づくか、それは食べ物の例えと同じで、いい音を聞いている人は耳が肥えている。それに尽きるかもしれません。

取材/文 タチカワ ノリコ
Photo Takeru

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