MY HERO’S INTERVIEW

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Vol.2『酒とおやじと居酒屋ふじ』

立河宜子(以下、立河):先日、チャンクリが大緊張していた(笑)出版記念パーティにお邪魔させてもらいましたが、『居酒屋ふじ』は、どれくらいかけて書いたんですか?

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栗山:構想2年。それから少しずつ書き始めて2年弱くらいで書いたかな。ところどころで自分の人生観とか経験したものが入っているんです。

立河:もう私、笑って、泣いて、大変でした!例えばね、役者の先輩の話だとか、色々な人のエピソードを元に小説として書かれているけれど、チャンクリの気持ちはどこに入っているの?

栗山:ほとんど自分の気持ちだけだよ!だってさ、ろくでもない『居酒屋ふじ』のおやじが、なぜこんなにも愛されるのか。なぜこんなに人が集まって来るのかってことに疑問を持つことで、「このおやじのやってきたことに比べたら、オレの悩みなんてちっぽけなものじゃないか」って思えるわけ。そのことだけを届けたい、小さな小さな話なの。

立河:うわ〜、そうなんだ。

栗山:そう。決してこの居酒屋のおやじはバカで破天荒な男でしたって話じゃなくて、「あなたにとってそんな居酒屋はありますか?」っていう、そういう裏テーマがあるの。

立河:裏テーマかぁ。そうね、なかなかそういう気持ちにまでさせてくれるお店には辿り着けないもんね。私も飲みに行くことはあっても、チャンクリにとっての居酒屋ふじみたいな気持ちになる店には……まだ出会えてないかな。

栗山:それは、こちらが感じ入ることなんだろうけどね。でもやっぱり酒場っていうのは面白い。なんか色々な人の人生のかたまりがいっぱいゴロゴロしてる。

立河:ああ!そうそう、思うね。よく行くバーもね、友達の女性オーナーを中心に回っているように見えるけれど、そこには一人一人のお客さんのドラマがあるんだよね。毎回、何か揉め事があったり、誰か泣いてたり、笑ってたり。これって、皆なの人生がさ、飲み屋には集結してるんだなって思うことがあるよ。

栗山:酒場ってさ、酒だけを飲みに来てるわけじゃないんだよね。自分のその時々の気持ちを酒と一緒に飲み込むために来ているんじゃない? 腐りそうな自分を、どうやって腐らせないようにするかって。

立河:気持ちを吐き出すことはないの?

栗山:吐き出すから、空っぽになって、飲み込めるわけじゃん。

立河:なるほど。

栗山:表面張力のようにジワジワと溜まってちびちび溢れるだけでは、容器の中は空にはならないからね。家庭では吐き出せないこともあるから、酒場なんだよ。 酒場ってのはそもそも器なんだな、コップなんだな。

立河:また巧いこと言う〜〜流石だね!そのボキャブラリーはどこから出てくるの?

栗山:少なくとも本は読まないからね。睡魔が襲ってきて読んだつもりでもなんにも記憶にない。持病みたいなもん。だから過去に5冊くらいしか読んでない。言葉や感情に触れるのはすべて「耳学」。すべては耳で聞いたものを目で確認して、匂いを嗅いで、確認したり行動したり。オレの場合はそれしか思い当たらない(笑)

立河:だけどよく書いたよね、こんなに。

栗山:結局、おやじに惹かれたんだよね。そのおやじはね、首から抗がん剤ぶら下げていて、何回も死にかけているんだよね。それでも破天荒で、めちゃくちゃで、人に迷惑かけっぱなしなんだけど、どうしようもなく人に愛される。こんなおやじ見たことないから、何か残したいって強く思った。最初は映画撮ろうと思ったの。でも待てよと。映画撮るんだったら「脚本は誰が書くんだよ」と。「脚本書く前に、原作ねーじゃん」って、オレ他人事みたいに言ってたの。そしたらあるときノリさん(木梨憲武さん)に呼び出しくらって「クリ、言い出しっぺはおまえだろ。だからクリが書けよ」って。で、オレも「ですよね〜」なんて言って(笑)。そこで「ああ、、、そうだオレ、逃げてた」って心が痛くなった。

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立河:最初は誰かが書けばいいのにって思っていたの?

栗山:だって、書いたことないから!だいたい本も読まない奴に、こんな分厚い本を見せられたらゾッ〜〜〜としますよ。でもまあ、逃げちゃいかんと言い聞かせたの。50歳にもなって、まさかこんな1,000本ノックみたいなことするとは思ってもいなかったけど。

立河:頑張ったね。今までも雑誌でコラムとか書いてるわけだから、量的にはお茶の子さいさいなのでしょうけど。でも一つ小説を書くっていったら、大変だからね。

栗山:文字並べるだけじゃないってことは解ったね。

立河:そりゃそうよ、だって物語なんだもん!

栗山:そう、その物語の中には、自分がいる。自分がいるってことは、自分に関わった人がいるって感じでどんどん広がっていくわけ。そうなると、誰にでも投影できるような物語じゃないといけないって気づくわけですよ。それに気づいたのが、わりと早い段階だった。最初はすごい格好いいことばかり書いていたんだけど、50ページ位書いたところで「あ、なんかダメ。違うな」と気づいて書き直した。何文字書いたかな、原稿用紙で換算すると100ページ?うわぁ〜もったいない、って言いながら「そりゃっ!」って消去できたのが良かった。早期発見、早期治療ですよ!

立河:書いていて違うと思ったの?

栗山:なんかこう、書いててジワジワと違う方向にきて、このまま書いてたらピサの斜塔みたいにズレが大きくなるぞと。それに気がついて、今なら戻れるぞと。人生と同じだね、やり直しですよ。でもそのやり直しの中には失敗の教材が入っているから、ここには行っちゃいけないっていう。99点の時のマイナス1点だね。これを直さないとジワジワいっちゃうぞというポイントを直すのが一番大事なんだよね。それを一番やらなきゃいけなかった気がした。

立河:う〜ん。そこに至るだけでもチャンクリの深い思いは一杯書かれていただろうに、本当によく消して、やり直したよね。ところでここに出てくる「ふじ子さん」は実在の人?

栗山:おやじさんのお嬢さん、銀座のホステスでね。その親子愛が不器用で、書きながら何とも言えない思いになった。

立河:私、結構泣いたもん、ここの件。ふじ子さんが出くるところ泣いた。

栗山:男にとって女って、やっぱり……マザーなんですよね。これはもう、ちっちゃい女の子にもそれを感じることがある。

立河:母性でしょ? そう、ちっちゃな女の子だって本能で持っているもの。

栗山:そう、母性ね。それで男は所詮、鼻タレ小僧だよ!

立河:男の人は、所詮、鼻タレ小僧?

栗山:そうだよ。鼻タラしてなんぼ(笑)!

取材/文 野水優子

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