MY HERO’S INTERVIEW

Vol.3『リセットは難しい、でも白衣を脱いだら別人』

立河宜子(以下、立河):みゆきは子供の頃から将来の夢を看護師一筋で見事に実現させて頑張ってきているけど、夢が叶ってからの今、他にやってみたいことはある?

佐谷みゆき(以下、佐谷):そうだねー……あっ! 美容師さんになりたい。宜子がやっているエステとかもそうだけど、人をキレイにすることには興味があるし、技術や、手に職があるのはすごいなって思う。病院でも患者さんにシャンプーしてあげるけど、本当は、カラ―やカットもして、キレイにしてあげたいなって思ったりする。

立河:そうね。キレイになって喜んでいただけると、こちらまで嬉しくなる。入院すると美容院に行くのは難しいものね。

佐谷:CAさんって、入社した時髪の毛の結い方やお化粧を習ったりするでしょ? ナースはそれがないの。

立河:“ナースの身だしなみ”っていうのはないの?

佐谷:講義としてはないのよね。ただ、感染管理っていう意味合いで、長い髪は患者さんにかかってしまうこともあるから結ぶことは必要。あと、時計や指輪の装着はダメだし、髪の毛のカラ―の指定もある。清潔感が大切な仕事だからね。

立河:結婚指輪も? 手の回りには何もつけちゃいけないの?

佐谷:うん、ダメなの。菌がついちゃったりするからね。でもそれは、“感染管理”っていう意味合いであって、いわゆる“身だしなみ”とは違う。患者さんに弊害がなければ、髪が多少ボサボサでも見て見ぬふりをすることもあるけど、本当は身だしなみもきちんと教えてあげたいの。

立河:そういったところにも気を配っているのね。

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立河:さて、この対談で、私が一番聞きたかった質問をしてもいい?

佐谷:どうぞ。

立河:元気になって退院する方もいれば、残念ながら亡くなられてしまう方もいるでしょ。人の死を目の当たりにした時は、どうやって乗り越えてきたの?

佐谷:うーん……。患者さんのために、今、何ができるのかを考えるのはもちろんだけど、あと数日で亡くなるのかもしれないって人も中にはいて、その人の子どもが小さかったりすると、死ぬまで…もしかしたら死んだ後もその人は子どものことを考えているのかもしれない。でも、その思いは絶対に生命力につながるから、私は患者さんに諦めてほしくないし、諦めなくていいって常に言っているの。でもね、逆に、もうこれでいいよねって思えるような時間を過ごしてもらえるようにもしている。答えはひとつじゃないけど……。本人も、家族も、私達も、がんばったよね、よかったよね、っていう最後の時間を作れたらそれでいいかなって思う。生きている時間に何をしたいのかが大切。それと、決して患者さんをかわいそうと思わないようにしている。

立河:でも、そうはいっても、かわいそうって思ってしまうことはないの……?

佐谷:思っている、実はすごい思っているよ! 『師長さんはいいよね今日帰れるから』なんて言われてしまうこともあって、もうね、その時は、「うん」としか言えない。「ごめんね」って気持はすごくあるけど、言ってしまったらかわいそうになってしまう。だからあえて「うん、じゃあまた明日会おうね」って言って帰るの。

立河:言葉選びって難しいね。

佐谷:相手が納得できる言葉っていうのはあまりなくて、でも、真剣に話をきいてあげないと、見透かされるし、そこはね……魂を吸い取られるよ。

立河:本気で相手の思いを受け止めて、言葉を発するって魂使うよね。笑い飛ばして終わりにはできない生死に関わる仕事だからこそ、看護師という職業はパワーを使うんだと思う。その疲れをリセットする方法はあるの?

佐谷:完全にリセットすることはやっぱりできないけど、患者さんと目標を持つようにしているの。家に帰るのがままならない状況の患者さんがいたのね。パワーの源は、娘さんと一緒に家で過ごすことだったから、“外泊する”っていう目標を一緒に立ててね。達成したらそこで私達も一旦リセットができる。今日を迎えられたね、帰れたねって。そうやって常に目標を立てて、前に進むの。

立河:……なるほど。

佐谷:例えば、“穏やかな顔で死を迎える”のも目標であっていいと思う。家族と一緒に過ごしたい患者さんには、家族と過ごせるように環境を整えたり、一番いい状況を作ってあげるの。その中で、死を迎えるっていうのも大きな目標だからね。

立河:それぞれの目標を応援してあげるのね。

佐谷:家族に『ありがとう』って言って、最後を迎えた人を見ると、これでよかったんだなって思うから、そういう環境を作る努力はしている。でも、経験の少ない若いスタッフ達は、発作が起きるとパニックになっちゃうこともある。オーバーワーク気味で一杯一杯な上に、患者さんから厳しい言葉を投げかけられて、『退勤時間だから帰ります』なんて言ってしまった子もいたけど、患者さんは朝がきたら終わるわけじゃないからね。

立河:そうよね。患者さんは常に病気と闘っているんだものね。それを受け止めるって、本当に大変な仕事ね。

佐谷:そうね。でも、白衣を脱いだら別人って昔から言ってるでしょ? 白衣を脱げば、ある意味リセットできる。仕事のことは考えない(笑)。

立河:はい! 白衣を脱いだら違う人です。私、知ってます(笑)。でも、本当に切り替えられている……? 昨日の患者さん大丈夫だったかなぁとか考えたりしない?

佐谷:もちろん全部ではないけど、今日はあの映画を見ようとか、明日の加圧トレーニングのユニフォーム何にしようかなとか、パッと切り替える。

立河:私ね、生死に関わる思い仕事をしているのに、みゆきはいつもイキイキとしていて楽しそうだなって思うの。私だったら、患者さんに同調しすぎて精神的にまいってしまうと思う。でも、みゆきの場合、白衣を脱いだら本当に違う人になるじゃない?(笑)

佐谷:ふふふ。

立河:それで、ご飯も、お酒も、加圧も、温泉旅行も、全力で全部楽しむ。この人、本当に人生を謳歌してるなぁ、楽しんで生きてるなぁって思うの。

佐谷:うん、楽しいねぇ。

立河:みゆきは、自分のことが好きだよね。

佐谷:そうそう。ダメな所も含めてね、好きだよ。

立河:みゆきと出会った頃ね、私は自分のことが嫌いで、認められなかった。でも、みゆきは自分のことが好きで認めているから、すべてを楽しめてるんだなって。『宜子も楽しめばいいじゃない、楽しいこといっぱいあるよ!』って、何度も言ってくれたのを覚えている。嫌な事があったとしても受け止め方が前向きなの。それがみゆきの強さの秘訣なんだと思う。だから看護師の仕事も勤まるのよね。

(続きます)

取材/文 SUZUKA YAKABE

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Vol.4 最終回『coming soon』 は4月28日公開予定

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